ニブル山の頂上付近で、空から崖に駆け下りる。もう少し先にドラゴンがいるが、一旦ここで落ち着いた方がいいだろうとオーディーンは手元を覗き込む。
6本足のオーディーンの愛馬、スレイプニールの上で、クラウドはオーディーンにしがみ付いたまま、その小さな肩を震わせていた。
泣き声すら気丈に押し殺す小さな子供の背中をオーディーンは優しく摩る。
久しく人と関わっていなかっただけに、心を開きかけた分、そのショックは大きい。
やはり自分は人とは相容れないのだと8歳ながらに漠然と理解していた。
自分の家系に代々伝わってきた赤い宝玉、それをザックス達はマテリアだと言っていた。
両親が事故で死んで、クラウドの周りには誰もいなくなった。遠巻きにしていた村の住人はこぞって関わりたくないとクラウドを忌避した。
周囲の者達がクラウドを忌避する理由はわからなかった。でも、村で昔から言われていた"ニブル山に登れば、死んだ人に会える"という言葉を鵜呑みにして、クラウドは小さな足で懸命に山に登った。自分にはお守り代わりの宝玉しかなかった。それを両手で抱きしめて、両親を想った。
どこをどう歩いたのかもわからない。不思議とモンスターに遭う事も無く、奥へ奥へと誘われるように足を進める。気付いたら目の前には光る泉があった。
目の前に広がった不思議な光景に、クラウドは思った。ここに、お母さん達がいるかもしれないと。
クラウドはマテリアを握り締めたまま泉の中を覗き、そしてふらりと泉の中に落ちたのだ。
気が付いた先は、見たことも無い世界だった。空に浮かぶ星はとても近く、左右で昼と夜が混じった様な空をしている。寒いのか暑いのかもよくわからない。周囲を見渡せば、森林が多い茂っているその直ぐ横で、砂漠が広がっているという不思議な世界だった。
その頃になってようやく、自分は何かに抱きかかえられている事に気付いた。そして直ぐ横には白い大きな馬がいた。その馬の足は6本もあって、クラウドは目を瞬く。
見上げた先には甲冑を纏った大きな男がいた。甲冑に覆われて表情は見えない。だが、片目が見えていない事はなんとなくわかった。そして、とても懐かしい気がしたのだ。この存在を、自分は身近に感じていたはずだ。
頭の中に聞こえてきた声に、クラウドは驚いた。久しく会話というものをしていなかった気がする。
そして、オーディーンだと名乗ったその男は、全てを教えてくれた。
世界の理に始まり、そして最後には、自分とオーディーンの事を。
自分の名前の意味を知って、ようやく村人から忌避される理由がわかった。尚のことクラウドは一人ぼっちだと思った。両親にも会えなかった。だけど同じ名の意味を持つ、唯一の存在がそこにいた。
一人ではなかったのだ。クラウドは両親が死んで、初めて声を上げて泣いた。
***
セフィロス達はニブル山に入った直後に、頭上で旋回しながらで鳴く、二羽のカラスに遭遇した。
「うわっ、山に入った途端これかよ。縁起わるー」
カラスを見たザックスがそう独り言ちる。死体に集るカラスは、縁起が悪い象徴でもあった。そのカラスを目に留めたセフィロスが怪訝な顔をする。
「……まさか」
「どうした、セフィロス?」
アンジールの問いには答えず、セフィロスは周囲をぐるりと一巡する。そして、ある一ヶ所でピタリと視線を止めた。それに怪訝な顔をしたアンジールが、何かいるのかとセフィロスの目線の先を見る。
「ニブルウルフ……?」
「なんだあれ……? なんかでかくねーか?」
崖の上で、二頭のニブルウルフが此方を伺っていた。ザックスの言う通り、標準のニブルウルフより一回り体格が大きいと思われる。だが戦闘をしかけてくるような様子は無く、むしろ悠々と構えていた。
だが、頂上へ進むに連れて、二羽のカラスと二頭のニブルウルフも付いて来ているということに、他のメンバーも薄々と気付き始める。
「……なんか、おかしくねーか?」
休む間もなく次々と現れるモンスターの数が尋常じゃない。それより、幾度と無く狼の遠吠えらしきものが頻繁と聞こえている。
そしてようやく気付いた。崖の上の狼が遠吠えをする毎に、モンスターが現れているということに。
「気付くのが遅いぞ。それでも同類なのか?」
「どういう意味だよ、おっさん!!」
「ああ、すまない。お前は駄犬だったな」
「俺は犬じゃねー!!」
「ザックスで遊ぶなセフィロス! ザックスも集中!!」
飛び掛ってくるニブルウルフを避けながら、アンジール達は次々とモンスターの数を減らしていく。
任務中に他の事で遊ぶというセフィロスは見たことが無い。恐らく、相当に機嫌が良いのだろう。アンジールはこんなにも楽しそうに戦闘をしているセフィロスを見たのは、こっそり隠れてジェネシス達とトレーニングルームを半壊させるまで戦い合ったあの時以来だ。
襲い掛かってくる最後の一匹をザックスが仕留めたその横で、なんとセフィロスは頭上で旋回を続けているカラスに向かって、ファイアを数発容赦なく放った。
「セフィロス!?」
流石に動物虐待だとアンジールが眦を吊り上げた瞬間、予想にもしない事が起きた。
なんと、カラスにファイアが当たる寸前で、シールドが展開し、セフィロスのファイアが此方目掛けて降り注いだのだ。
「うわああああ!」
頭上から炎の塊が幾つも降り注げば無事では済まない。更にセフィロスのファイアだ。
常人が放つファイアの何倍もの威力を誇るそれは、目前に迫った。
しかし次の瞬間、セフィロスの正宗が一閃し、全てのファイアが掻き消える。
その頭上ではやはりカラスが旋回していた。だが、次の瞬間、ニブル山の頂上へ向かってカラス達は去っていった。
呆然と去っていくカラスを見守っていたザックスは、隣で笑っているセフィロスに気付いた。
「なんなんだ、アンタ……」
奇妙なものを見るように、ザックスはセフィロスから一歩引いてしまう。
「ここまで偶然が一致しているとは思わなかった」
「……御伽噺か?」
「ああ。予想以上だ。これは御伽噺ではなく、正に実話の様だ」
「なんだと?」
怪訝な顔をするアンジールを横目で見ながら、セフィロスは正宗を一閃し、血糊を飛ばす。
そしてまた、何事も無かったかのように頂上へ向かって歩き始めた。その後ろから、アンジールが溜息と共に疑問を投げかけた。
「いい加減説明してくれ、セフィロス。俺達には何が何だかわからない」
「オーディーンの御伽噺の中で、一致する部分だけ掻い摘んで話そう」
「一致?」
「オーディーンは戦神だと言われている。その名の意味は"狂乱"、"激怒"。そして"災いを引き起こす者"」
「ちょっと待て、闘争と意味が似ているぞ……」
「そうだ。子供の名前の意味とオーディーンの名の意味は、戦争の引き金となる原因だ」
「おい……それは……」
「更にオーディーンは、人と召還獣のハーフだと言われている」
「なんだと!?」
「推測だが、子供は恐らくオーディーンと血縁関係があるだろう。もしくは子孫に当たる人物かもしれない。それならば、何らかの形でオーディーンと意思疎通が出来るのも頷ける」
アンジール達は絶句するしかなかった。そして、更にセフィロスは続ける。
「オーディーンには6本足の愛馬の他に、使い魔の様な存在がいる。それがワタリガラスの二羽と二頭の狼だ」
「さっきのやつか!?」
「恐らく此方を監視しているのだろう。それとも時間稼ぎのつもりか……。オーディーンは戦神でもあるが、本質は貪欲なほどに知識を欲しがる存在だ。魔法を得る為に己の片目を代償に差し出したとあった。他にも知識と魔術の神という別名もある」
「おいおい、どんだけだよ……」
「子供の周辺に大人はいない。なのに高難易度の魔法やお前達2ndの治療を行っている。子供の身近にいる存在はオーディーンだけだ。恐らく、」
「オーディーンがクラウドに教えている……?」
そうだ、と想像を絶するような答えが返ってきたのだった。
拍手ありがとうございます!
ブログをあまり使っていないからとブログで連載を始めたら、なんだかここ最近人が凄く来て驚いています。
いや、ピクシブがすごいんですね……。
すぐサーチを抜けたりする逃亡癖の強いビビリの自分は大それた事をしたとビクビクです。
でも、それと比例して拍手とか頂けてやる気も頂いているので、ありがたやと書き書き…!
このテンションのまま、一気に書き上げてしまいたいです。(設定ネタバレしたし。笑)
もう少し続きますが、お付き合い下さると幸いです。宜しくお願いいたします。
[11回]