ニブル山に入った直後から次々とモンスターに遭遇し、予想外の苦戦を強いられたせいか思いのほか歩みは進まずにいた。ようやく頂上手前に位置する橋にかかり、セフィロスは渡る前にその足を止めた。
「……これか?」
「ああ、おっさんが言ってた橋? これ以外の橋は無いと思うぜ」
「御伽噺ではニブルヘイムにはギャラルブルという黄金の橋がかかっているらしい」
「黄金かー。ま、現実ってこんなもんだよな」
目の前には時の経過が刻む橋が架かっていた。縄を編みこみ、その上に板を敷いた質素な橋だ。
ニブルヘイムを舞台に創作された御伽噺ならば、黄金に喩える気持ちも分からなくも無い。世の中の御伽噺はその数だけ如何様である筈なのに、共通して物を過剰に金銀財宝に喩える。それが安っぽい演出になり、子供向けになっているのは分かるが。
セフィロスは大人数人分の負荷に橋の強度は耐えられそうにないと瞬時に判断した。2nd四人の体重には耐えられたようだが、今その重量に耐えられる気がしない。二人ずつ橋を渡るようにセフィロスは指示を出した。
しかし橋を渡った向こう側に位置する、橋を留めている支柱に件のカラスが二羽、左右に止まっているのに気付いた。これには全員の顔が嫌な予感に歪む。
「行くぞ、アンジール」
「動物虐待をしている気分になってしまうな……」
アンジールが溜息を吐いて前を見据えた瞬間、セフィロスとアンジールは一気に橋を渡り、カラスに攻撃を仕掛ける。その間に他のメンバーが隙を見て橋を渡るが、走ればその分だけ橋も激しく揺れた。カラスが橋を狙わないかと心配でもあるが、別の意味で橋の強度を心配せざる得ない。
何とか全員が橋を渡りつつ、ザックスはちらりとカラスとセフィロス達の戦闘を見ていて気が付いた。カラスが自分達でさえ使えない上級魔法を使っていたのだ。セフィロス達の攻撃をいとも簡単にシールドで塞いでしまう。これにはもう驚愕するばかりだ。
「マジかよ……」
セフィロス達がカラスの注意を引いてくれていなければ、橋を落とされていた可能性が更に増した。
ザックスは、どこか御伽噺の部分を鵜呑みに出来ない部分があった。見た目は普通のカラスなのだ。召還獣であるはずのオーディーン自身が使役しているという実感が無かった。
シールドで塞いでいる間は術者は何も出来なくなる。シールドは敵の攻撃を全て防ぐが、その影響は術者にも影響する難点があった。それを見越して、セフィロスとアンジールは間を稼ぎつつ、容赦ない攻撃をカラスに浴びせていた。
始終シールドで塞がざる得なかったカラスは、ザックス達が全員無事に橋を渡りきると二羽は直ぐ様、戦闘を離脱し遠くへと飛び去って行った。
セフィロスとアンジールは深追いはせず、直ぐに全員の安否の確認を行う。
「大丈夫か、お前達」
「なんなんだあのカラス、めっちゃ怖ええ……」
「シールド系の魔法は全部使えるようだ。正直もう相手にしたくないな……」
カラス相手にこんなにも苦戦するとは思わなかった。下手をしたらあのカラス達はドラゴンよりも手強いだろう。しかも、あのオーディーンが使役している。カラスに傷を負わせでもしたらオーディーン自身も黙っていないだろう。
カラスに攻撃してしまっている手前では既にオーディーンの怒りを買っている可能性があるが、そちらもやはり心配になるのは仕方ない。アンジールは最新の注意を払い、攻撃のタイミングをずらしていた。
しかし、横にいたセフィロスの様子がおかしい。なにやら不機嫌な様子だった。
「なんだ、どうしたセフィロス?」
「手ごたえというより、試されていた感じがする」
「……なんだと?」
「恐らく、いや。確実だな」
セフィロスはそれ以上は何も言わず、何事も無かったかのように更に頂上へと向かう。アンジールはセフィロスの言葉を聞いて愕然としていた。
アンジールは敢えてカラスへの攻撃をしないように努めていたのだが、カラスからしてみればそれも計算の内だったとセフィロスは仄めかした。セフィロスは推測で確実とは口にしない。だからこそ"確実"なのだろう。
あまりの事の連続に、アンジールは思考が中断しそうだ。あのカラス達の知性はどこまで高いというのだろうか。
橋から直ぐの所で、セフィロスの足がピタリと止まる。道が二手に分かれていた。
「おい、どっちだ?」
頂上へはこのまま上を目指せば良いと思うのだが、ドラゴンの居場所は2ndしか知らない。セフィロスはザックスにドラゴンの居場所を聞いた。
「あ、このまま上に行くと魔晄炉の真上に出るんだけど、そこにドラゴンがいる。あっちの道は魔晄炉に繋がってた。その手前にある洞窟を抜けると、アンタの言ってた魔晄の泉があったぞ」
「泉は反対側か」
惜しいがドラゴンを優先すべきだな、とセフィロスはドラゴンの方へと足を向けた。
「確かに魔晄の泉って見たことなかったけど、あそこも御伽噺に出てくんの?」
「フヴェルゲルミルという名の原始の泉だと書いてあったな」
「原始の泉……?」
「魔晄は元々、この星のエネルギーであるライフストリームを加工した名だが、そのライフストリームはこの星の精神であり、記憶、知識であると謂われている」
「その結晶がマテリアか」
「そうだ。オーディーンは魔術を得るために泉の水を飲ませて欲しいと泉の番人と交渉する。番人に代償としてオーディーンの片目を差し出せと言われ、オーディーンは自分の片目を抉り出した」
「ゲー! そんなん御伽噺にすんなよな!!」
ザックスの言葉にアンジールが全くだ、と同意する。とてもじゃないが、子供向けとは思えない御伽噺だ。だが、ザックスがそこで気付いた。
「ん? ニブルヘイムを基にした御伽噺が現実に近い事実だとすると、その魔晄の泉を飲むと魔術が使えるようになるってことか?」
これに珍しいこともあるものだとセフィロスが笑う。どういう意味だと憤るザックスだったが、セフィロスの笑いから自分が言ったことが間違っていなかったと気付いて、他の仲間にどうだといわんばかりの顔をした。
「ザッ君がドヤ顔になってる……」
「調子に乗ってんじゃねーぞ」
同胞達から次々と野次が飛ぶのもお構い無しに、ザックス得意の笑顔だ。単純ね、とシスネからボソリと横から飛んでくる辛辣な評価はとりあえず脇に置いて、ザックスは更に気付いた事を言ってみた。
「だけど、それには代償が伴うんだろ?」
「そうらしいな。だが、オーディーンは俺達とも似ていると思わないか?」
代償を払って魔晄の泉を飲み、魔術を得たオーディーンと、魔晄を浴び、施術を受けて肉体強化を行ったソルジャー。確かに似ているかも……と、ソルジャー達は目を瞬く。
「だからこそ、御伽噺だと思えない」
「お前が興味深々な理由がようやくわかった」
苦笑しながら溢すアンジールに、他のメンバーも同意する。
皆は自分達とも似ていると称された事で、現実味のなかったオーディーンやクラウドの逸話が、なんだか身近になった気がした。
※オーディーンが魔術を得た泉はニブルヘイムの泉ではありません。
もうお分かりと思いますが、この話は北欧神話を元にしています。参考にした物は最後に記載します。
いつも拍手ありがとうございます!
この字数でいけば、あと2~3話で終わりそうです。
逆行の方からもそうですが、ザックス、カンセル、エッサイ、セバスチャンの絡みを書いている時間が凄く楽しいです。
この話が終わったら、続き物か番外編でソルジャー達と絡むちびクラを今度こそ書きたい自己満足。
ラストスパートがんばります!
[13回]