セフィロスが放った一言に、アンジールはわなわなと震えだす。任務とはいえ、このままではただの人攫いと同じではないか。
しかもあのセフィロスが子供の能力に惚れ込んだのが嫌でも分かった。それを説得するでもなく、まるで物の様に欲しいなどと言い出したのだ。弟子の命の恩人であるクラウドの、並々ならぬ危機ではないかと案じてしまう。
セフィロスは神羅でその地位を築き上げている。英雄と謳われ、その行動は正義だと信奉している者達で溢れかえっている。
ザックスの事前の連絡で、クラウドは孤児であることが分かっていた。セフィロスがクラウドの能力を買って保護したとすれば、それは美談として世に伝わるだろう。
だが、それがクラウドの為とは思えないのもまた事実であった。しかし子供に拒否権は無いのが現実だ。周囲の大人が決めてしまえば、子供はそれに流されざるを得ない。それにセフィロスはカリスマ性はあっても、個性が強すぎて人との付き合いが上手い方ではない。どちらかといえば相手が合わせるのが当然という立場にいる。現に上はそれらを考慮した上で、セフィロスに弟子を取らせていない。セフィロスに教育ができるとは思えなかった。そして更に子供の美貌が問題だ。セフィロスに稚児が出来たと噂が立つのは目に見えていた。
アンジールは義理堅い男であった。弟子達の命の恩人に、自分達は恩を仇で返しているこの現状に気付く。任務なら仕方がないと思えるかもしれないが、任務遂行にも色々な手段があって当然だ。しかし交渉するまでもなく、まるで物として扱うような予感がセフィロスから漂っている。
「セフィロス、人攫いの様な真似はするなよ」
「タークスに任せておけば、それこそ子供を攫うのではないか?」
確かにタークスならやるだろう。だが、何故ダメなんだと言わんばかりの顔をしたセフィロスに、アンジールのこめかみに青筋が浮き出る。
タークスがやるから自分もやっていいなどという事柄を、アンジールが許すはずも無い。
「お前は俺に説教されたいとみえる」
「……それは御免こうむりたいな」
冗談だ、とセフィロスは肩をすくめてみせるが、アンジールはそれが冗談ではないことに気付いていた。今までにないセフィロスの食いつきを見れば、誰もがそう思うだろう。
クラウドは確実にタークス、もしくはセフィロスによってこれからの人生の選択を強引に決められてしまうだろう。
部下の命の恩人であり、そして年若い芽をソルジャーという過酷な道へと強引に進ませたくは無い。
だが、己も選択を迫られると予感していた。だがセフィロスと同等に、前代未聞の若葉をこの手で育ててみたいという興味がアンジールにも出てきているのは事実だった。
セフィロスとアンジールは悠々と会話しているが、互いの相手はオーディーンとドラゴンだ。器用に攻撃を掻い潜りながら、なにやら話し込んでいる。
よくもそんな余裕があるなと思いながら、ザックス達は目の前に敵に必死に応戦していた。
1stソルジャー達は1対1ではあったが、2nd達は四人固まって敵と対峙している。二頭の狼と二羽のカラスが相手だ。はっきり言って非常に不利だった。なによりカラス達の防御が堅い。そして更に狼達の攻撃に、じわじわと追い詰められていた。
何より、ドラゴンの巣に卵と共にいるクラウドが彼らの回復を常に行っていた。状態異常もダメージも瞬時に回復されてしまい、あまつさえ防御系の補助もするのだ。
こういう場合、術者を先に手を打ちたいが、それこそ狼やカラス、そしてオーディーンとドラゴンを掻い潜らなければクラウドへはたどり着けない場所にいた。
シスネもフォローに回ってくれるが、タークスはソルジャーよりも戦闘に秀でているわけではない。それはシスネ自身もわかっているので、どちらかといえば回復の方に回ってくれていた。
「あーもう! キリがねーぞ!!」
永遠と繰り返しそうな状況に、ザックスがたまらず吠えた。自分達が力尽きるのも時間の問題だ。膠着状態の打開策はもう、セフィロスとアンジールにしかない。
しかし、ソルジャー達とオーディーン達が総出で戦闘していた隙を、狙われた。
***
諦めてほしい、帰って欲しいと願うのに、ザックス達はその手を緩めようとはしなかった。
膠着状態に陥ってしまい、クラウド自身もどうしていいかわからなくなる。
クラウドが攻撃してしまえば、この場は一気に片がつくだろう。そうしなければいけないのに、クラウドにはどうしてもできなかった。
人々に忌避される事に慣れきってしまって、クラウドはザックスの言葉を信じられなかった。
自分と友達になって欲しいと初めて言われたのに、人間不信に陥ってしまっていたクラウドには、ザックスを突っぱねる言葉しか出てこなかった。
ザックスは余所者だ。ケガが治れば帰ってしまうとわかっていたからこそ、友達になったところで意味が無いと思っていた。
人と向き合えないと漠然とながらも理解しつつあったクラウド自身には、ザックスは眩し過ぎたのだ。
オーディーン達の戦闘に時折回復魔法を挟みながら、クラウドはずっと戦闘を見守っていた。意識がそちらへ向いてしまっていて、その近づいてくる気配に気付くのに遅れた。
背後でドラゴンの巣の藁を踏みしめる音に気付いたクラウドは、弾かれた様に振り向き、目の前にいた男達に絶句する。
二ヶ月前、ドラゴンから助けたあの男達だった。まさか、ずっとこの機会を狙っていたのだろうか? 執拗な男達に青ざめながら、とっさにクラウドはその胸に大きな卵を抱え込む。
「おい、卵を寄越せ!!」
「……っ!!」
抱きしめた卵を力任せに奪われそうになり、クラウドは思わずサンダーの魔法を男達に放った。
「ぐああっ」
「この……っ! クソガキが!!」
男が持っていた銃の銃底で、クラウドは額を強打された。
「あ……っ」
衝撃にくらりと視界が歪む。だが、ここで意識を飛ばせば、男達に卵は奪われる。クラウドは唇を噛み締め、またもや男達にサンダーを浴びせた。男達から悲鳴が上がったその隙に、ここから逃げなければと卵を抱えて立とうとするが、卵が予想以上に重く、子供の腕では持ち上がりそうにない。
「くっそ、この化け物が……!!」
銃底でクラウドを殴りつけた男は、持っていた猟銃の銃口をクラウドへと向けた。
***
ふと、クラウドの支援魔法が止んだ。その隙をザックスが転機と思ったその時にその音はした。
クラウドがいた巣へ、雷撃が落ちたのだ。何事かと目をやれば、そこには見知らぬ男達から、必死に卵を守るクラウドがいた。
「クラウド!!」
狼達の攻撃を掻い潜り、ザックスは無理だと思われていたドラゴンの巣まで一気に走り抜ける。
ザックスの尋常では無い様子に、セフィロスを始め、オーディーンや他の者達もそれに気付いた。
目の前には銃口をクラウドに向ける男がいた。
「うおおおおおおお!!」
ロングソードをひるがえし、ザックスは一気に間合いを詰めた。
キィン、と弾かれるような音がした。
男から銃口を向けられ、クラウドは腹に卵を庇いながら男と卵の間に蹲る。撃たれると思っていたクラウドは、待てども衝撃が無いことに気付いた。恐る恐る目を開いて顔を上げた先には、自分を庇って立っている男の背中が見えた。
「……どう、して?」
自分と友達になって欲しいと両手を合わせてお願いしてくる男がそこにいた。
男は何が起きたかわからなかった。自分が持っている猟銃の先が短くなっている。
一瞬で子供との間に入ってきた男は、蹲っている子供を庇うように体勢を低くし、下から見上げるように男を睨みつけていた。
「おい、アンタ。命の恩人に何してんだ」
「ヒ……ッ」
まだ10代に見える子供から迸る殺気に、男の悲鳴は裏返る。手に持っていた猟銃は、ザックスのロングソードで見事なほどに真っ二つになっていた。そしてこの殺気。これがソルジャーなのかと男は化け物を見るような目でザックスを見る。
後ずさる男の後ろで、クラウドのサンダーに撃たれ倒れていた男達の意識が戻る。それに気付いたクラウドがザックスに教えようとした、その時だった。
オーディーンの愛馬のスレイプニールが上空から駆けつけ、男に頭突きを食らわせたのだ。
ドゴッ!! という、いい音と共に、男は数メートル先まで吹き飛ばされていた。そして後から駆けつけた狼達が唸り声と牙をむき出しにし、残りの男達に襲い掛かる。カラス達からは火炎放射やレーザーが口から迸っていた。
狼達の殺気と攻撃が尋常ではない。男達に浴びせる攻撃が、自分達と戦っていた先ほどとは雲泥の差がある。もしかして手加減をされていたのではないかという疑念が浮かび、呆気にとられるザックスの元へカンセル達が走ってきた。
「大丈夫か!?」
「クラウド、無事か!!?」
エッサイとカンセルの言葉に、ザックスもクラウドへと振り向く。クラウドは額から血を流しながら、呆然とザックスを見上げていた。
セバスチャンがザックスと共に、まだ周辺に敵がいないかと警戒しながらクラウドを励ました。
「大丈夫か? もう心配いらないからな!!」
「クラウド、傷を見せてくれ」
カンセルがしゃがみ込み、クラウドの傷口を診る。クラウドの強打された額は赤く腫れ、血が吹き出ている場所は青黒く変色し始めていた。
カンセルの手から癒しの光が溢れ出す。不思議と痛みはあまり感じていなかった。クラウドはただ、呆然と自分を取り囲むソルジャー達を見つめていた。
「頭痛がするとか、視界が歪むとかはないか?」
カンセルの質問に、クラウドはふるりと首を振る。どうして自分を助けるのか理解できないクラウドは、ぎゅっとその手に抱く卵を、無駄だと分かってはいても少しでも隠そうとした。
「クラウド、心配しなくていい」
「え……?」
にこりと微笑んだカンセルに、クラウドはまたしても呆然となる。そして、お兄ちゃんと慕っていた四人が、クラウドを背にセフィロス達へと声を張り上げた。
「すみません、サー! 俺達はサーの任務を妨害します!!」
「この子は俺達にとって命の恩人でもあります。俺達の誇りです」
「恩を仇で返すような事はしたくありません!!」
「悪いなアンジール! おっさん、あんたにクラウドと卵は渡すかよ!!」
四人の掛け声に呆気に取られたアンジールとセフィロス。そしてクラウド。
そして同じくセフィロス達と対峙し、硬直状態から動けなかったオーディーンとドラゴンから、一気に殺気が消えた。
この密猟者達に殺気を向けていれば、狼達は攻撃してこないという事に気付いたシスネは、やれやれと言いながら狼達をシッシッと追い払いながら男達を拘束し始めていた。
狼とカラスは、どうも手加減がわかっているらしい。だが男達を半死半生にしながらもクラウドを傷つけられた怒りは収まらない様で、いつまでも唸り声を上げていた。
「……セフィロス」
「なんだ、アンジール」
「俺も部下に賛同だ。俺の部隊は、何よりも誇りを重んじるように躾けているからな」
「……」
ジロリ、と眉間に皺を寄せたセフィロスがアンジールを見る。一気に機嫌が悪くなったな、とアンジールは吹き出した。
目の前で起きていることが、クラウドには信じられなかった。あの銀髪の男に、ザックス達は自分と卵を渡さないと言ってくれている。
「どうして……?」
クラウドの呆然とした呟きに、ザックスはクラウドを振り向き、二カーッと笑った。
「俺達、トモダチだろ?」
太陽の様に、その笑顔は眩しく見えた。
次でラストです。
宜しければどうぞお付き合い下さると嬉しいです。
[8回]
PR