シスネが男達を拘束し終わるのを見計らって、セフィロスは溜息と共に正宗を下げた。
これによって場の緊張が一気に緩む。ドラゴンは至って警戒したままではあったが、殺気は無くなっていた。オーディーンが何やら話しかけているようで、どうも此方は此方で説得の真っ只中であるらしい。
セフィロスが正宗を仕舞うのを見て、クラウドは緊張の余りにガチガチに硬直していた身体から力を抜く。だが、依然として己の心音は煩いままだった。どくどくと脈打つそれは、ふいにガタガタと震えだす。
「え?」
それは自分ではなかった。抱きしめたままの卵が自発的に動いていたのだ。クラウドの驚いた呟きにザックス達が何事かとクラウドを見ると、クラウドが抱いている卵がガタガタと震え、卵の中からゴツン、ゴツンと衝撃が走っていた。
「え、まさか……」
目を瞬き、ザックスが思わず呟く。孵化すると気付いたが、あまりの突然の出来事に卵を見入ってしまい動けずにいた。その中で唯一カンセルだけが、慌てながらこの場から離れるようにと指示を出す。
「クラウド、もう大丈夫だから卵をドラゴンに返そう」
カンセルの言葉にクラウドは頷く。慌てながらも、ゆっくりと卵を巣の中央に戻し、クラウドはザックスと共にアンジール達の元へと駆けて行く。
カンセル、エッサイ、セバスチャンは、シスネに拘束されていた男達を担ぎ上げ、巣の傍から離脱した。
人が巣の傍から居なくなったのを見計らい、ドラゴンが巣に戻る。そして卵を大事そうに抱えた。
アンジールの元に戻ってきたザックス達の横で、クラウドはオーディーンの元に駆けて行く。それに釣られるように、狼達もまたオーディーンの傍へと戻ってきた。オーディーンは大事そうにクラウドを担ぎ上げ、その頭を撫でた。
「剣、使わないでくれてありがと」
オーディーンにそう言い、クラウドはオーディーンの首元に抱きつく。横で微笑ましく見守っていたソルジャー達の中で、セフィロスだけが不機嫌に疑問をぶつけた。
「剣を槍に替えたのは何故だ」
「……あれ使うと、絶対死ぬから」
セフィロスの質問に答えたクラウドの言葉に、セフィロスは更に機嫌が悪くなる。
「手加減をしていただと?」
「あ、もしかして! 俺を助けた時にニブルウルフを真っ二つにしたやつ!!」
ザックスの一言でオーディーンの特性を思い出す。オーディーンは一撃死攻撃をする召還獣であったことを皆が思い出した。途端、セフィロスを覗くソルジャー達の顔色が一気に青くなる。
「まぁ、良かったではないか。一撃死を食らっていたら、オーディーンと戦えなかっただろう?」
「………」
納得いかないとギロリとアンジールを睨むセフィロスに、ガチで戦う気だったのかよ! とザックスが叫んだ時だった。
卵が割れる音が大きく響いた。ああ、産まれたのだと誰もが思い、その口を閉じた。
敵対していた者達が今、新しい命の誕生を見守っていた。新しい命は懸命にその翼を広げ、そして天に向かって産声を上げる。その産声は、クラウドの苦労を全て拭ってくれた。
見守っていたアンジールはクラウドの傍に寄り、声をかけた。
「君がいなければ、俺の部下もドラゴンの子も助からなかった。ありがとう。よくがんばったな」
微笑んで感謝するアンジールの顔を、クラウドは凝視してしまった。
アンジールの言葉は、密猟者達を助けてしまったせいでドラゴンを危険に晒してしまったと、心のどこかで悔やんでいた気持ちを払拭させてくれる。
少し離れた場所にいたザックスと目が合うと、ぐっと親指を立てて笑顔で労ってくれた。
自分はザックスとトモダチになることを拒んでいたのに、ザックスはトモダチだと言って駆けつけてくれた。ザックスは、うそつきではなかったのだ。
一気に緊張の糸が切れたらしく、クラウドはくしゃくしゃに顔を歪め、今にも泣き出しそうだ。アンジールはよくやったと褒めながら、クラウドの頭を撫でた。
ふと、クラウドの直ぐ上空で、赤く光るものがゆっくりと落ちてきた。何事かとアンジールを始め、一気に緊迫した空気が辺りに満ちるが、それはとても優しい光を放っていた。
その光に向かって、クラウドは手を伸ばす。差し出した手のひらの中に、赤い宝玉があった。
「……マテリア?」
オーディーンと同じ、赤い宝玉。ザックスが言っていたマテリアという物だ。
頭の中に聞こえてきたオーディーンの声に、クラウドは反復するようにそれを言葉にした。
「ばはむーと?」
「バハムートだと!?」
ぎょっとしたアンジールを余所に、クラウドは此方を見つめていたドラゴンに言葉をかける。
「くれるの?」
ドラゴンの首が、ゆっくりと頷いたように動く。そして、孵化したばかりの子を首に乗せ、ドラゴンはその翼を広げた。
「……ありがとう」
バサリ、バサリと翼をはためかせ、ドラゴンは空に帰っていった。
***
全てが終わり、下山しようとした時だった。
「あー、すまない。出来れば、ここでクラウド君と話したいのだが」
アンジールはクラウド達を引きとめ、話を切り出す。村へ戻れば村長達に聞かれてしまう可能性があると、アンジールは断ってくれた。
「……なに?」
「ザックス達が君を探していたのは聞いているか?」
「うん」
「俺達は将来有望の者をスカウトしている。君をどうかスカウトしたいのだが」
「すかうと……?」
「スカウトとは秀でた者を仲間に誘う事だ。どうか俺達と一緒に来てもらえないだろうか」
「え……?」
来るとはどういう意味だとクラウドは混乱する。
「俺達と一緒に、戦わないか?」
にっこりと笑いながら、アンジールはその手をクラウドへ差し出す。
混乱しているクラウドは硬直していた。誘われるとか、そういった事など経験した事がないのだ。しかし、クラウドの混乱を尻目に、セフィロスが現実を突きつける。
「お前はドラゴンの存在を村に隠していたな。それは村を危険に晒す行為だ。村の住人がお前を放っておくと思うか?」
途端、ビクリと肩を揺らすクラウドに、アンジールがセフィロスに何を言い出すんだと咎める。
「お前は村から厄介者扱いを受けているのだろう? 村長がお前の事を"疫病神"と言っていた。お前は今回の件で、あの村に住み続けることは更に難しくなった」
「…………」
「おい、おっさん!」
クラウドを苛めるなと噛み付くザックスを、セフィロスはジロリと睨み黙らせた。
「お前はもう、あそこには居られない。だから俺達と来るんだ」
「え……?」
「お前のその力は、あの村では恐れられる。だが俺達の傍なら、その力は有難いものへと変化する」
「あり、がたい……?」
「そうだ。俺の傍で、その力を育め」
「ちょ、ちょっと待った!!」
「……なんだアンジール」
邪魔をするなと言わんばかりに不機嫌になるセフィロスに、アンジールは慌てながらセフィロスを止める。
「お前にクラウド君は任せられん!!」
「……どういう意味だ」
「え、アンジール。それって……」
事の成り行きを見ていたザックスが、思わず口にする。まさか、とザックス達を始め、部下達の顔は喜びに溢れていた。
「あー、ごほん。クラウド君、どうか俺の元に来ないか。ザックス達もいて、うるさいかもしれんが……」
「うるさいってなんだよ!!」
「黙っていろ、ザックス。オーディーン……さん? 達も、一緒に来て貰えると、その、嬉しいんだが」
「……オーディーンも?」
「そうだ」
「ゲリとフレキも? フギンとムニンも?」
「狼達のことか? ああ、構わないぞ。君は人との付き合い方を、これから学ばなくてはならない。それは、あっちの男では些か不安でな」
「……おい、アンジール」
さり気無く酷い事を言っているとセフィロスが主張するが、アンジールはお構い無しに続ける。
「クラウド、君のその力はとても凄いものなんだ。周囲はそれを恐れ、そして欲しがるだろう。君はその力の使い方を学び、向き合わなくてはいけない」
「……うん」
アンジールが何をいわんとしているか、クラウドにはわかっていた。何れにせよ、ドラゴンの存在が知られた今、あの村へ帰る事はできないだろうと予感はしていたのだ。
「……些か不満はあるが、まあいい」
クラウドの心が決まったのがわかったのか、セフィロスは不満を洩らすが、それだけで終わる男ではなかった。
「いずれ俺が貰う。絶対に」
ニヤリと言い放った英雄に、アンジールやザックス達が一斉にクラウドを背に庇い、絶対お前にはやらん!! と言い放ったのだった。
***
村に帰れば、静かな町並みが、村の住人と神羅の兵士で溢れていた。住人に怯え、不安になるクラウドを、ザックスが大丈夫だと慰める。
「スカウトに成功したんですね」
「ああ。あと、土産だ」
どさり、と地面に放り投げられた密猟者達に、ツォンが訝しげな顔をする。
「こいつらがドラゴンを狩り、ニブル山に追い込んでいた」
「……ドラゴンだと?」
村長が驚愕に顔を歪ませた。
「ああ、言っていなかったか。俺達はソルジャーの回収とドラゴンの討伐に来ていた。その原因がこいつらだ」
「な、なんだと……?」
「おい、こいつら、以前クラウドが助けてた奴じゃないか?」
村の住人は密猟者達の顔を覚えていたようだ。それに気付いた村人達が、一斉にクラウドを糾弾し始めた。それにまるで慣れているかのように、クラウドの表情はふっと無表情になった。
「おい、やめろ!」
アンジールが怒る。そして、殺気の篭った声で、アンジールは真実を伝えた。
「クラウド君は確かに密猟者達を助けたが、同時に村を守っていた」
「……村を守っていた?」
アンジールの言葉に、ハッとなって顔を上げたクラウドは、やめて、と叫ぶ。
「しかしクラウド……」
「オレは大丈夫。だまってたの、本当だし……」
「……そうか」
クラウドとアンジールのやりとりを交互に見ていた村人達だったが、次第に口々にクラウドを罵り出した。それにアンジール達の顔が怒りで歪む。しかし、セフィロスは違っていた。
「この子供がいることでお前達が不安ならば、この子供は俺達が貰い受ける」
「なに……?」
「もうここに用はない。行くぞ」
笑顔でそう言った英雄に、村人達は何か不安に駆られる。自分達は何かとんでもない事をしてしまった様な、そんな不安に駆られてしまった。それを裏付ける様に、村長が慌てて追いかけてきた。
「ま、まて……! クラウドを連れて行くな!!」
「お前達を危険に晒した子供だと、先ほどお前達はこの子供を糾弾していたな。安心しろ、もうこの村には関わらせない」
「待て……!! 待ってくれっ!!!」
「さあ、帰るぞ」
そう言ってクラウド達をヘリに向かわせたセフィロスは、残る神羅兵に向かって、クラウドの家を指差した。
「あの家に残っている私物をミッドガルまで運べ。受取人はアンジールだ」
「了解しました!」
ばたばたと走り回る神羅兵は村人達にはお構いなしに作業に没頭し、ソルジャー達はヘリに乗り込み、ニブルヘイムを後にした。
ニブルヘイムに残ったのは、青褪めた村長と村人だけだった。
***
「……あの村長、何か隠していましたね」
ツォンの一言で、セフィロスが笑う。
「そうだろう。あの子供は、村の守り神だからな」
「は?」
「オーディーンは召還獣だが、神としてその名が残っている。戦争を示す名だが、戦争に勝ってきた勝者の名だ」
「……」
「クラウドの家系は、あの村にとって巫女的存在だったはずだ。現にニブル山の巡回をし、村を守っていた」
「そうですが……」
「山の均衡は崩れた。止める者がいなくなった痩せた山の獰猛なモンスターは、餌を求めて村へ降りて来るだろう」
笑いながら、セフィロスは続けた。
「ニブルヘイムは、近いうちに必ず滅びる」
自業自得だ、とセフィロスは言った。
その後、セフィロスとアンジールの任務は、既にドラゴンの孵化が終わり、その場には何も残されていなかったと記された。
いいのか……? と、アンジールの良心の呵責が起き、苛まれたがセフィロスの一言で払拭された。
「俺が何故、科研どもの言う事を聞かなきゃならん」
心底嫌そうに答えるセフィロスに、アンジールは大笑いしてしまった。
クラウドはアンジール達と一緒に住みながら、ザックス達と共に学ぶことになった。
新しい生活がここから始まり、そしてこれからもクラウドは奮闘していくのだった。
お付き合い、ありがとうございました!!
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